帝光中学は、実力主義である。
中学1年でも実力があれば、ベンチ入りどころかレギュラーになることも出来る。
中学3年でも実力がなければ試合に出ることなく終わるのだ。

4月から入った中学2年生―黄瀬涼太にとって、この実力主義は好都合とも言えた。
バスケを始めたばかりだというのに、恵まれた体格とセンスで頭角を現していった。
そして、とうとうベンチ入りを果たすところまで来たのだ。



黒子はストレッチをしながら、顧問と話す黄瀬を見ていた。
多分明日の試合についてのことだろう。
しばらくすると話し終わったようで、こちらに小走りで向かってきた。
何か顧問に頼まれたのかな…と見ていると
黄瀬は何故だか黒子の足に引っかかり、転んだのだ。


「…………大丈夫ですか」
「す…すいません…!居るの気付かなかったっス」
黄瀬のその言葉に、別に自分に用があるわけではなかったのか…と思った。
影が薄いとか存在感薄いとか言われているので慣れているといえば慣れているけれど
やっぱり複雑な気持ちであった。
「大丈夫なら、良いんですけど…」
黒子は立ち上がり、黄瀬にぺこりとお辞儀をしてその場を立ち去った。

それからすぐに同級生たちが、大丈夫か?と声をかけながら近寄ってきた。
始めは全然馴染めなかったが、次第に言葉を交わす程度にはなっていった。


「大丈夫っス。…そいえば、さっきの人って誰スか?」
黄瀬が首を傾げながら問うと、周りはいっせいにギョっとした顔になった。
「…お前何言ってるんだ?」
「へ?」
「……同じクラスだろ?」
「あれ?」
必死にクラスメイトの顔を思い浮かべたが、全く記憶がなかった。
「オイオイ。アイツは黒子、このバスケ部のレギュラー」
同級生の言葉に、黄瀬は叫びそうになるのを押さえ込んだが驚きを隠せなかった。
周りはまだ何かを言っているようだったが、黄瀬の耳には何ひとつ届いてはいなかった。




試合当日、よく見れば黒子は本当に試合に出ていた。
黄瀬自身も少しだけだが試合に出ることが出来た。
きちんと得点を入れ、活躍したのだから喜ぶべきなのだが
試合以後黄瀬はもやもやとした感情を抱えていた。

胸のあたりに突っ掛かっている何かが黄瀬には分からずに居た。
こうなったのも黒子という人物を知ってからだ。
黄瀬は、キチっとセットされた髪をかき、深く溜息をついた。
近くでクラスメイトの女の子がなにか言っているようだったけれど
それを無視して机に突っ伏した。







アナタの名前は、
黒子テツヤ。