R  a  i  n
the rainy season



[ 梅 雨 入 り ]
ボタボタと屋根に当たる音が、体育館の中に響いていた。
天気予報ではまだ梅雨入りしたと言っていないけれども
ここ連日雨が降り続いている様から、どう考えても梅雨入りなんじゃ…と思う。
黒子はこの時期があまり得意ではなかった。
雨というのは好きだけれども、じめじめと暑さが苦手だからだ。

「ちょ…黒子っち、雨音すごいっすよ…!」

声のする方を見ると、体育館の窓にくっついた状態で黒子に向かって手招きしていた。
こっちへこいということなのだろうか…。
流石にそんな気分でもなく面倒臭くて無視すると、黄瀬はそれ以上何か言ってこなかった。
ふと、ある言葉が頭に浮かび黒子は自分でギョっとした。
自分で無視したくせに、なぜ寂しいと思ってしまったのか…。
黒子にはそれが分からなかった。
(06/17)



[ 流 し 雨 ]
ぺたぺたとする。
それが雨のせいだけじゃないことは分かってる。
自分の中で渦巻く感情のせいなんだ。
黒子に声をかけ、無視されるのはよくあることだ。
だけど、直後緑間が黒子に近付いていくのを見てどうしようもない気持ちになった。
ずーっと前から気付いているけど気付かないフリをしている感情。
その気持ちが黒子を傷付けることも自由を奪ってしまうことも分かってる。
生温い風が吹き抜ける。
自分の感情を突き付けられたようで余計に苛立ち
そして認められるものではないのだと深い悲しみをかんじた。
(06/18)



[ 集 真 藍 ]
どれも似たようなでも同じ色をしている。
自分も同じ色をしていたはずなのに
段々と違うのではないかと思い始めてしまったのは
一体どんなきっかけだったのだろう。

(そんなの愚問だと分かってる。だってきっかけははっきりそこにあった)

自分と他の人の色が違うことに気付いてしまった今、苦しいだけだった。
その色の違いを気付かれたら自分はどうなってしまうのだろうか。

黒子は予想した未来を振り払うように、駆け出した。
(06/19)



[ 梅 雨 闇 ]
こんなにも夜が暗いとは思っていなかった。
あれから黄瀬は黒子とほとんど話していない。
部活で事務的な会話はした。
だけどその他に話すことがなくなった。
どうしていいのか分からず、黄瀬は黒子と距離を置く。
そして同じように、黒子は黄瀬を避ける。

「こんなに、話さなかったことなかったっス…」

ふと、出た声は夜の暗さに消えていく。
この状態は、そうだ。

思い出したくないあの時と、一緒。



全中決勝を終え、黒子は姿を消した。
誰も何も言わなかった。
誰にも何も言わせなかった。
繋がってたものがぷつんと切れた音がした。
(06/20)



[ 中 降 り ]
あれから1年が経ったのだと気付いたのはこんなにも雨が降っているから。
隣に黄瀬くんは居ない。
今、黄瀬くんの横には彼の尊敬する先輩が居る。
隣に緑間くんは居ない。
今、緑間くんの横には彼のチームメイトが居る。
そしてボクの隣には火神くんが居る。
「どうした、黒子」
火神は心配そうに黒子を見ている。
知らぬ間に考え込んで足を止めていたらしい。
部活帰り。
一緒に帰るのは当たり前になっていた。
「何でもないです」
そして歩き出す。

雨が降っているのに
暗さを感じないのは君が隣に居るからなのかもしれない
(06/21)








梅雨入:梅雨に入ること
流し雨:梅雨の時期に南風とともに降る雨
集真藍:あじさい
梅雨闇:梅雨の時期に、空が厚い雲で覆われている所為か夜の闇が特に深いこと
中降り:夏至に降る雨
thanks:雨のことば辞典