先のことを考えて生きることが難しいことなんだって、はじめて知った。
だから人は必死にもがいたり、ふとしたその一瞬が輝いていることを知った。
見たこともない、神様というものの気まぐれで

世界がかわった。


「ハッピーハロウィン!お菓子をくれないと、いたずらしちゃうっす」
にこにこと言ってくる黄瀬に、黒子はポケットから飴を取り出した。
黄瀬は黒子から飴を受け取るとすぐに口に入れ、ガリっと噛み砕いた。
「お菓子をくれないといたずらしちゃうっす!」
黄瀬はいたずらがしたいらしいが、面倒なことになるのを黒子はこれまでの経験から
学んできているので、また一つポケットから飴を取り出し、黄瀬に差し出した。
黄瀬の手にぽとりと落とされたその味は、黄色い色をしたレモン味。


この不思議な習慣のことも、世界が変わってから知ったことのひとつだ。
これまでいろいろなことに興味がなかった。
長い長い命のなかで、さらにその先を考えることを馬鹿にしていたからだろうか。


黄瀬はまだ諦めていないようだったが「なにやってるんだ」という青峰の声とともに
黄瀬が大げさな声を出した。青峰が、頭をごつんと叩いたようだった。
青峰は少し離れたところで、黒子と黄瀬のやりとりを見ていたようだが
このループがいつまでも続くことが分かり、止めにはいってくれたようだ。
「ありがとうございます、青峰くん」
「黄瀬のこれは、いつもだろ。テツも甘いから、こいつがつけあがるんだよ」
「ちょ…青峰っち。ひどいっすよ〜」
「うぜぇ!」
こんないつもの風景が、なぜか苦しく感じた。



今でこそ、夜は【寝る】時間となったが、昔は自分達のための時間だった。
苦しさを紛らわすように、久々に夜の街を歩いた。
ネオンで明るい街。
だけど、この明るさは夜の暗さを隠すために生まれたものだと黒子は思っている。
少し裏道に入れば、そこはすぐに黒になる。

「この時間になにをしているのだ?」
声の主に、黒子は少し笑った。
「きっと、会えると思いまして」
「今のお前には、ただの危ない時間でしかないのだよ」
振り向けば、呆れた顔で経っている緑間がいた。
緑間だって、こんな時間に歩いていたらふつうは危ない。
わかっていながらも、黒子はそのまま返した。
「緑間くんだって、こんな時間に歩いているなんて危ないですよ」
「誰に言っているのだよ」
一瞬で変わって空気に、苦笑いしながら黒子はそうでしたねと返した。

緑間はなんだかんだと言っても、優しい。
その後、暗いところにずっといるのは危ないのだよと言い、近くのマジバーガーに入った。
黒子が、こっちに来てから気に入ったマジバーガーのバニラシェイクを購入し
火度段落ついたところで、黒子は緑間を改めて見た。
「緑間くんはどうしてここにいるのですか」
「面白そうだと思ったからなのだよ」
何が、と言わなくても、緑間が指しているのは、黒子のことなのだということは分かっている。
「…今は、緑間くんがこっちにいるから、自分のことを思い出せるのですが…
いつか薄れていって、そのまま終わるような気が最近するんです」
「それが人間なのだよ」
「え?」
「今のお前は、人間なのだ。だから当たり前なのだよ」
「…そう、なんですかね」
「長い間、お前は人を見てこようともしなかったから知らないだけだ。
時間はかぎっれているからこそなんでも欲しいと願うんだろう。
俺はそういうところが面白いと思うのだよ」
「緑間くん…」
「そして、そんな人間になろうとしている黒子…それが、より面白くさせる」
「緑間くんらしいですね」
黒子はなんとなくほっとした。
もう帰れという言葉に黒子は頷いて、お店の前で別れた。
黒子はネオンで明るい街に、一瞬眩しさを感じながら、帰路についた。



翌日。
「黒子、昨日の夜は楽しかったな」
黒子と黄瀬がいつもの通り話している横を、緑間がぽそりとつぶやいて通りすぎた。
黒子が一瞬何のことを言っているのだか理解できずにいる間に、
黄瀬はぎゃあぎゃあと騒ぎ出した。
緑間に文句を言いたくても、しっかりと人ごみに紛れて消えてしまっている。
横では、黄瀬がどういうことっすか!と騒いでいるのを、何とか受け止めながらため息しかでてこなかった。



初出:2012/10/07
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